
新宿御苑のハンカチの木|桜との競演が見られた春の奇跡
今春は例年より1週間、場所によっては10日ほど早い開花が相次ぎました。毎年通っているカタクリの里も、前年の記録をもとに立てた撮影計画を大幅に前倒しにしなければならず、心臓に悪いドキドキの春でした。桜もチューリップも同様——「早い春」は、撮る側の段取りをいつも揺さぶります。
桜色を背景に、白いハンカチが揺れた
そんな「早い春」が思いがけない贈り物をくれました。新宿御苑のハンカチの木です。
例年4月下旬ごろに見頃を迎えるこの木は、本来なら八重桜がすっかり緑に変わる頃に白い苞を広げます。ところが今年は、まだ八重桜が咲き残っていた。白い苞の向こうに、淡いサクラ色のぼかし。こんな画が撮れる場所が他にあるでしょうか。新宿御苑ならでは、そして今年ならではの一枚になりました。
フォトクレインの仲間たちと、一年を通じて見守る木
見頃はおよそ1週間。だからこそ、フォトクレインのメンバーは毎年この木を心待ちにしています。御苑の入り口近くにあることもあり、集合時間より早く来て、すでに撮り始めているメンバーもいました。うれしい光景です。
晩秋には葉をすっかり落とし、コロンとした大きな実がグレーの空にぽっかりと浮かんだように見えます。冬の到来を感じるその姿も、撮影してきました。春の苞、秋の実、冬の樹形。年に何度か、メンバーみんなでこの木の季節を記録しています。
中国原産、19世紀にフランス人神父が発見した珍木
ハンカチの木(学名 Davidia involucrata)は中国原産の落葉高木で、19世紀にフランス人神父アルマン・ダヴィッドによって西洋に紹介されました。英語では Dove tree(鳩の木)や Ghost tree(幽霊の木)とも呼ばれます。白い大きな苞が2枚、ひらひらと垂れる様子からついた名前です。
苞が地面に落ちると、それはまるでちり紙のよう。風に転がってゴミのようにも見えてしまうのが少し笑えます。
今年、あらためて気づいたのは「におい」でした。少し独特な青臭さがあるな、と思って調べてみると、「青葉アルコール(cis-3-ヘキセノール)」という成分によるものだそうです。昆虫を引き寄せるためと考えられているとのこと。見た目の優雅さとは裏腹な植物の戦略、面白いですね。
歴史あり、エピソードあり、においまであり。ちょっと変わった美しさだけでなく、人との関わりを想像させる木です。来年もまた、この木の前に立てることを楽しみにしています。